「新釈 走れメロス 他四篇」読了。

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)

名作のパロディということで若干不安を覚えつつ手に取ったけど、しっかりした中身に安堵し、没頭して読んだ。山月記にしろ薮の中にしろ、触れれば切れる、どころか下手すれば片手くらい吹き飛びそうなくらいのインパクトがあった。テーマを身近に置き換えたことで、原作が秘めている凶暴性がむき出しになったような気がする。いや、作者が書きたい部分を上手く強調しているのかな。うまくシンクロナイズされていると思う。
薮の中に関しては多様な読みが出来る作品だけど、これはこれで成るほどと思わされる。つか、自分も森見と似た部分に興味を惹かれる。瞋恚に燃えたかった眼差しで妻を見て、美しいと感じる男の心情にフォーカスを当てた気持ちがなんとなく分かる気がする。原作(芥川版)では男は自刃しているわけですが、そこまで潔くしなかったのが森見版の特徴なのかな。
走れメロスは他とは違って、娯楽性に富んでる。この作品がなく、他の四篇だけだとかなり重たい本になっていたかも。そもそも、原作にしたって友情を描いた…なんて言われるけど、太宰、ノリノリじゃん?みたいな。メロスがセリヌンティウスと友情を確かめ合うのなんて、予定調和に他ならない訳で、大仰な文章を愉しむべき…だと思うんですよね。
百物語もこれまた違ったテイストで、作者本人を登場させている辺りでなんか違う。そもそも原作が一人称なので仕方ないのだけれど、他の四作と並べることでまた違った意味合いを醸し出していると感じる。ところで、掌編はこの程度の読後感で十分なんだよなあ、なんて思ったりしますが、どうでしょう。


レトリックを弄する点は西尾某に似てなくもないと思うけど、そしてそういうタイプは基本的に嫌いなんだけれども。この人のはなんか許せるんだよなあ。